10月28日(金)にZoom開催された
FMICS 月例会(第755回例会)「 考察 学びこんできた生徒を大学はいかに選抜するのか」にて私がお話しした問題提起の内容を、ベースに書いた報告です。
この私の報告を含む、その他の事例報告、ブレイクアウトセッションの記録、参加者の感想などについては、毎月会員宛に発送されている会報『BIG EGG』
(2022年11月号)に収録されています。

高等学校、大学での事例報告をうけて、私からは大きく2つ、入試の実施時期に関わる問題提起と、横浜市立大学で導入した試みついてお話ししました。
まず入試の実施時期に関わる問題提起としては、年明け入試の限界を悟り、年内入試を標準に考えを改める必要性を指摘しました。
従来の標準的な入試の季節感としては、1月の共通テスト(かつてのセンター試験)に始まって、2月の私立大学入試、国公立大学の2次試験と続く流れです。高等学校での学習が終わってから、学力検査による選抜を行うという想定であり、文部科学省が定める「大学入学者選抜実施要項」においても、学力検査を課す場合の(個別大学の)試験期日は“2月1日から3月25日までの間”とされています。
共通テストの源流となった共通1次試験の導入の際、実施する大学側では大学の学事暦との関係や季節の安定性の面から、12月の実施を提案しましたが、高等学校側の強い反対により現行の1月中旬での実施となりました。近年では、共通テストへの切り替えの際して、記述式の導入が検討された際(結局、導入は見送られましたが)、採点日程がタイトになることから記述式試験を1月中旬の日程から分離して、12月に実施する案も検討されましたが、これについても高等学校側の強い反対で一蹴された感があります。
しかし、年明けの1月に共通テストを実施して、2月以降に各大学の個別試験を実施するというスケジュールは、それを標準的なものとして多くの受験生が利用するには、時間的な制約があり、具体的な選抜方法において実施できることに限界があります。共通テストにおける記述式の導入が見送られてしまった事に見られるように、この時期の試験において、これ以上の機能を盛り込んだり、挑戦的な方法を取り入れるのは現実的ではありません。
そういう点で、12月までの年内入試こそが、これからの(ある面ではすでに)標準的な入試であると考えるべきでしょう。年内入試であればこそ、時間をかけた挑戦的な選抜を実施出来る可能性が高くなります。先に上げた「大学入学者選抜実施要項」において、学校推薦型選抜と総合型選抜が年内入試の類型として位置付けられており、総合型選抜は9月1日以降、学校推薦型は11月1日以降に出願受付と定められています。
近年は国公立大学でも学校推薦型選抜や総合型選抜の実施や入学者数が増えてきており、高等学校で学び込んできた生徒を選抜するのに適した方式と言えますが、学校推薦型選抜や総合型選抜でのある慣習がその普及にブレーキをかけてしまっています。それは、合格した場合は必ず入学しなければならないという専願縛りの存在です。西日本の私立大学の学校推薦型選抜や、いくつかの私立大学の総合型選抜では、他大学との併願を可能としているものも見られますが、国公立大学ではほぼ全てのケースで、専願縛りをかけています。高校からの推薦を基礎とする学校推薦型選抜の場合は、それで構わないと思いますが、少なくとも総合型選抜については、一人の受験生が複数の大学に挑戦できる機会を保障すべきでしょう。
従来型の試験勉強であれば、一般選抜において複数の大学を受験して複数の合格を勝ち取る事も可能なのに対し、探求的な学習に取り組んでも、それに適した総合型選抜においては、多くの場合1つの大学にしか挑戦出来ず、著しい不公平といえます。年明け入試が標準で、年内入試が例外であった時代(かつての「大学入学者選抜実施要綱」での類型もそのような示され方でした)には正当化された理屈でしょうが、特殊な「AO入試」から、より普遍的な「総合型選抜」へとコンセプトを変えたのに併せて、我々のマインドも変える必要があります。
ただ総合型選抜での専願縛りを規制し、受験生に複数大学受験を保障していくためには、個々の大学から取り組みを始めるのは困難であり、それは「大学入学者選抜実施要綱」にルールを盛り込むなどの政策レベルの規制が必要です。そしてこれを実現するために、大学側の声もそうですが、生徒を送り出す高校側からの強い要望が出てくる事を期待しています。
次に、横浜市立大学で試みている「学び込んできた生徒を選抜する楽しい試み」についいて紹介しました。これについての詳細は、FMICSのブログに公開されている
2017年9月〜11月のエッセイ「面接を重視した医学科入試」に譲りますが、高校で探求学習を学び込んできた生徒を選抜するに際して、直接的にその探求学習の内容を審査する典型的な総合型選抜の方法の他にも、今回紹介した複数回の面接繰り返すMMIを取り入れた選抜のように、直接的に探求学習の成果を評価しなくとも、その成果を体現した生徒を選抜出来ていると実感しています。総合型選抜や学校推薦型選抜などでは、各大学の出願書類に本人の学びの成果を記述させるのは重要で不可欠でがありますが、複数大学への出願機会を保障するに際しては、過度で無駄な負担とならないよう、そのバランスにも留意が必要で、選抜方法の具体的なデザインには、様々な工夫の仕方があると考えています。
今回を含むFMICSでの一連の例会や、その他の機会などで高校と大学の現場の関係者がこうした課題を共有し声を上げていくことが、今後ますます重要であると思います。
posted by N.IDEMITSU at 23:55
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高等教育論
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