2017年01月01日

『流しの公務員の冒険: 霞が関から現場への旅』

FMICS(高等教育問題研究会)の会報 『BIG EGG』2017年1月号 掲載のエッセイです。



 山田 朝夫 著 時事通信社(2016/10)

  序章 「自分の仕事」をつくる
 第1章 病院再生(動かす / 巻き込む / 創り上げる)
 第2章 霞が関の憂鬱
 第3章 流しの公務員の誕生
 第4章 トイレを磨く
  終章 流しの公務員「仕事の流儀」

 私にとって2016年最高の一冊でした。所々に傍線を引いてしまい、何度も何度もうなずかされ、感動の涙すら誘う、組織の中にあって組織に拘束されない「自分の仕事」の実践記録。カバー写真には、作業着を着てトイレを磨いている著者の、素敵な笑顔が写っています。

 1961年生まれの著者は、1986年に東大法学部を経て当時の自治省に入省。鹿児島県庁、衆議院法制局、自治省選挙課、大分県庁の課長、自治大学校教授を経て、1997年に大分県久住町に赴任。キャリア官僚で初めて町役場の一般職員になり、以後、地方自治体を渡り歩く「流しの公務員」を自称します。

 2015年に愛知県常滑市の副市長を退き、現在は同県安城市の八千代病院の理事兼法人事務部長を務めていますが、本書の半分近い分量を占める第1章は、流しの公務員最後の赴任地での、常滑市民病院再生の壮大な物語がつづられています。累積赤字を抱え「死人病院」とまで揶揄された市民病院を、市民や病院職員の参画による100人会議を立ち上げ、関係者を当事者に巻き込む手法により、劇的な経営改善と新病院建設を果たします。

 第2章〜第4章は、法案作成の激務を担った霞が関の行政官から、地方行政の現場に入り、ワークショップの手法で地域の人々を巻き込み、潜在力を引き出しながら課題を解決していった「流しの公務員の誕生」の物語が、失敗経験の振り返りも含めて語られます。

 終章は、現場に根ざした「仕事の流儀」のまとめ。琴線にふれるフレーズが満載です。 “問題解決で大事なのは「本質=真の原因」に迫ることです。” “現場に入り込んで、自分の体で感じることが必要です。” “人の心を動かすのは「戦略の正しさ」ではない。「ゴール」のイメージとそこに至る「物語」です。” “リーダーの一番の仕事は「こうやれ、ああやれ」と命令する事ではなく、「場を整える」ことだと私は思います。…コーヒーを用意する。朝早く来て部屋に掃除機をかける。会議の準備で一緒にホッチキス止めをやる。これらはみな「場」を整える作業です。”

 非営利の公的セクターであり、立場の違う関係者が複雑に絡み合うという点でも、地方行政と大学運営の現場は共通する点は多く、FMICS人には本書から大きな示唆が得られること、間違いありません。
(出光 直樹)

【追記】Youtubeに、本書で登場する場面の動画がありました!

常滑市民病院竣工式 いきものがかり「風が吹いている」合唱 <本書p138〜144>


山田朝夫常滑市副市長 退任セレモニー@ <本書p290>


山田朝夫常滑市副市長 退任セレモニーA <本書p291>


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ラベル:書評
posted by N.IDEMITSU at 00:00 | TrackBack(0) | FMICS巻頭言 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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