藤井 誠一郎 著 コモンズ(2018/05)
プロローグ 現場主義を貫く
第1章 初めてのごみ収集
第2章 研究者が体験した収集現場
第3章 多様な仕事
第4章 委託の現場
第5章 清掃行政の展望
本書は、大東文化大学法学部政治学科の専任教員の著者が、2016年6月〜2017年3月にかけて、のべ24日間にわたって行った東京都新宿区での清掃業務の体験調査により、その現場の奥深い実態や課題、そこで働く清掃職員の真摯な仕事ぶりを記した労作です。
第1章では、運転手と2人の作業員が乗り込む小型プレス車による基本的な1日のごみ収集作業の流れを、著者の実体験により紹介するとともに、フィールドとなった新宿区の清掃行政の概観しています。続いて第2章では、過酷な炎天下での収集作業、排出(分別)ルールが守られていないごみや繁忙期の対応、狭小路地での収集作業、福祉サービスとしての訪問収集、危険の伴う不燃ごみの収集と選別、無法地帯と化す新宿2丁目、災害時の応援、といった様々な収集現場の様子と職人的な仕事ぶりが紹介されています。また第3章では、独自のノウハウが必要な収集車の整備、ルールを守らない住民や事業者に対する清掃指導、小学校・幼稚園等での環境教育、苦情処理などの収集業務以外の多様な仕事、女性職員の活躍とその意義(清掃業務への偏見の払拭やイメージ向上)が述べられています。
第4章では、収集現場で進む業務委託の現状と課題について取り上げ、民間清掃会社の作業員へのインタビューからは多様な働き方のニーズを満たしているものの、業務のブラックボックス化が進み、現場のノウハウが継承されなくなるなど、行政サービスの低下につながる問題点があると指摘しています。そして第5章では、厳しい財政状況の中で進む地方行政改革と委託化の流れの中で、現業の清掃職員が持つ地域情報の価値を行政の資産ととらえ、他部門(福祉やまちづくり等)との協力・連携による行政サービスの向上といった可能性を提案しています。
大学の現場にも示唆に富むような内容の本書を著した著者は、同志社大学の事務職員として働きながら同大学の大学院総合政策科学研究科に通い、43歳で博士号を取得して研究者に転進した方でした。現場重視や業務委託に対する問題意識は、大学職員としての経験も背景にあったようで、その点でもなるほどと思いました。
参考:東京新聞「【考える広場】ごみ収集からみる地方自治」(2018年10月27日)
(出光 直樹)