8月25日(水)にZoom開催された
FMICS 月例会(第741回例会)にて私がお話しした問題提起の内容を、ベースに書いた報告です。
この私の報告を含む、その他の事例報告、ブレイクアウトセッションの記録、参加者の感想などについては、毎月会員宛に発送されている会報『BIG EGG』
(2021年9月号)に収録されています。
「受験生・高校生が、安心して挑戦できる大学入試・高大接続の仕組みや運用を、現場の視点で考える」
今回の例会ではこの基本理念のもとに、3つの視点から問題提起しました。
1.現行の入試日程への疑問
2021年3月例会でも述べましたが、現在の日本の入試日程のあり方が、上記の視点で見たときに適切なものなのか、根底から見直してみることが大切です。
現在の日本の大学入学者選抜のガイドライン(文部科学省の高等教育局長名で毎年通知される
「大学入学者選抜実施要項」)では、総合型選抜、学校推薦型選抜、一般選抜などの入試方法の留意点が示され、それぞれの実施時期については、総合型選抜は9月1日以降に願書を受け付けて11月1日以降に判定結果を発表すること、学校推薦型選抜は11月1日以降に願書を受け付けて12月1日以降に判定結果を発表することとされ、一般選抜の学力検査については2月1日〜3月25日の間で実施することとされています。
高校の学年暦(3学期制の例)と合わせて見れば、2学期の始まりとともに総合型選抜の出願が始まり、学校推薦型選抜も2学期中にほぼその結果が出揃います。そして3学期に入って1月中旬に大学入学共通テストがあり、多くの高校で3年生は自由登校となる2月に入ると私立大学の一般選抜が実施されます。国公立大学の一般選抜は前期日程が2月25日より、後期日程が3月12日より実施されますが、この間、多くの高等学校では3月1日から上旬にかけて卒業式を迎えるため、国公立大学一般選抜の受験者の多くは前期日程での挑戦であっても、高等学校の卒業式の後にならないと進路先が確定しないのです。
では他の国の大学入試のスケジュールはどうなのでしょうか? 例えば、近年は日本の高校卒業生もちらほらと進学するようになったアメリカの大学入試のスケジュールを見てみると、日本よりももっと早い時期から選考が始まり、高校の卒業式の前には基本的に進路先が確定するスケジュールになっています。
アメリカの大学入試は、方法としては日本の総合型選抜のモデルとなったアドミッションズオフィサーによる(総合的な)書類審査が基本になりますが、出願の時期や専願の縛りの有無などの区分が、大学のアドミッションオフィサーや高校の進学カウンセラーによって構成される
専門職団体(NACAC)よって定められています。
<参考>
DEFINITIONS OF ADMISSION OPTIONS IN HIGHER EDUCATION 入学者選抜の時期は、11月頃に出願を締切り12月中に合否が出る Early Decision や Early Action と、1月頃に出願を締切り3月頃に合否の出る Regular Decision とに大別されます。 Early Decision は合格した場合には必ずその大学に入学することが条件になりますが、 Early Action や Regular Decision にはそうした制約はありません。なお競争性の低い大学では、時期を分けずに随時出願を受け付けて審査を行う Rolling Admission で募集します。
高校の学年暦(2学期制)と合わせてみると、9月に最終学年の前期が始まる頃には Early 型に向けた出願の準備が本格化するとともに、審査の材料となる SAT や ACT などの共通テストについては、前の学年の後期から遅くとも11月頃にかけて何回か受験します。前期末(年末から1月上旬)までには Early 型の合否が出そろい、後期の初めには Regular Decision の出願を終えて、後期の中盤にその合否が出そろいます。そして複数の大学に合格していれば各大学の条件(奨学金の有無など)を比較し、5月1日(高校の卒業式前)に期限が設定されている入学手続を行います。
日本で標準とされる一般選抜は、高校の学習を概ね終えたタイミングで共通テストや個別の学力試験を行って選抜をするというモデルに立っていますが、それではどうしても高校の卒業前後の限られた期間に慌ただしい選択を強いられるスケジュールとなり、限られたエリートのみが大学に進学する時代ならともかく、ユニバーサル化した時代には無理があります。多くの受験生が一般選抜ではなく、時期の早い学校推薦型選抜や総合型選抜を志向するのは、ある意味で自然なことでしょう。
2.総合型選抜は、併願可能なルールに
これも先の3月例会で提言した事ですが、現在多くの大学では「総合型選抜」については“合格した場合は必ず入学”という縛りをかけていますが、受験生・高校生の選択肢を増やし挑戦を支援するという観点からは、原則としてこれを禁止し、複数の大学を併願可能なルールとすべきでしょう。当該大学への志望理由も評価に含まれるとは言え、受験生の様々取り組み(探求型学習含む)の成果を総合的に判断するのに際して、合格したら必ず入学しなければならないという縛りは、基本的に大学側のエゴとしか言いようがありません。手塩にかけて探求型学習をサポートしてきた生徒が、専願制の縛りにより1つか2つの大学にしか評価されないということは、理不尽な仕組みであると高校の先生方も思うべきなのです。探求型学習が高大接続の柱となるためには、探求型学習で成果を上げた生徒が、総合型選抜によって複数の大学から合格を得られることが一般的にならないとなりません。
かく言う私の横浜市立大学も、総合型選抜では“合格した場合は必ず入学”という縛りをかけています。ただ他の多くの大学がそうしている中では、本学のみが率先して専願制の縛りを外して行く事は困難です。受験生の挑戦する環境を守り、総合型選抜やそれに結び付く探求型学習を後押ししていくには、各大学が足並みを揃えられるよう「大学入学者選抜実施要項」にてルール化されるべきものです。そしてその為には、大学や高校の現場の我々が、しっかりと声を上げて行く必要があるのです。
3.指定校制学校推薦型選抜の情報公開
総合型選抜よりもその歴史は古く、多くの受験生が利用する学校推薦型選抜、これには大別して公募制と指定校制の2つの方法が存在しています。公募制は成績等の一定の条件を満たした者は高校を問わず応募することが出来て、その分競争的な性格で選考が行われるものです。1高校当たりの応募人数の上限があったり、特定の地域の高校のみが応募出来たり、特定の学科(商業学科、工業学科などの別)のみが応募できるなどの制限がある場合もありますが、特定の高校(固有名詞)に指定される訳ではないのものです。それに対して指定校制は、大学から特定の高校(固有名詞)に対して推薦枠を指定するもので、面接等の何らかの選考はおこなうものの、原則として高校から推薦された受験者は全員合格という運用がなされます。
なお、公募制とか指定校制と、いかにもルール化された区分の様に見えますが、「大学入学者選抜実施要項」には学校推薦型選抜についての記述はあるものの、ここに述べた公募制・指定校制の具体については定めておらず、業界の慣習として確立した区分になっています。
指定校制の学校推薦型選抜は、多くの私立大学で公募制のものと併用して実施されていて、国立大学で実施している大学は皆無ですが、公立大学でも一部で採用され、私の横浜市立大学では、実に入学者の2割程をこの方法で受け入れています。学力の担保が不十分で問題となるケースも耳にはしますが、本学の場合は、評定値や英語資格などの要件を適切に定め、また入学者の成績状況を追跡調査して適切な見直しをする事で、一般選抜よりも優秀な学生の受け入れに繋がることや、地域の高校に重点的に推薦枠を指定するという公立大学としてのミッションからも、大切な方式として運用しています。もちろん、特定の高校からしか応募できない制度なので、多くの定員を締めるとなると問題ではありますが、高校と大学の信頼に基づく高大連携の1つの形として、一定の意義と役割のある仕組みです。
ただしその運用や情報公開の在り方などについては、受験生・高校生の立場に立って見て本当に適切かどうか、検討すべき点は大いにあると思います。現状では、ある大学がどの高校に何人の推薦枠を指定しているかは、大学からは情報公開しない事が慣例になっています。もちろん推薦枠を受けた高校や、この制度を利用した受験生がどこ大学の推薦枠があるかを公表する事は何ら制限はありませんので、高校によってはその内容を積極的に広報する学校もありますし、逆に生徒が指定校推薦を利用する事を良しとせず、生徒にはなかなか情報を出さない学校もあります。応募条件については、要項が公表されている大学もありますが、高校毎に条件が違う場合などは、その詳細は公表されていない事がほとんどです。
早く楽に合格したいという事だけで大学を選ぶ、安易な指定校推薦の利用を抑制したいという進路指導の想いも理解できますが、受験生・高校生の選択肢の保障や制度の健全な運用の観点からは、適切な情報公開がなされるべきでしょう。しかし指定校推薦の情報公開をめぐっては、これが明文化されていない慣習であることや、様々な利害が絡むことゆえに、単独の大学から変えていくことはやはり困難であり、関係者によるオープンな議論をふまえたルール作りが必要です。
今年度より「大学入学者選抜実施要項」については、国公私立大学及び高等学校関係団体の代表者等を構成員として文部科学省に常設される
「大学入学者選抜協議会」にて協議されることが明確化されました。こうしたFMICS月例会での議論なども通じて、現場からの提言を上げ続けて行きたいと思います。
posted by N.IDEMITSU at 22:00|
高等教育論
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